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日本の産毛が過敏になっていく青い蜜柑のならぶ季節は
ありがちな感傷だろうありがちなその感傷と靴は限界
青いこの蜜柑が好きか。仮にもしそれが蜜柑でなくても好きだ
開いている。無数の穴が有線のちゃらい曲さえ付け入る隙が
しまわれてしまうのだろう。一方の現実として生きているのに
夕暮れのガードレールの歪みふかくほのかな熱を滞らせて
自転車の銀を冷たく触れた手で明日も明後日もごはんを食べなくてはいけない
潜んでる。時に焼かれた魚の目になったりもしてテレビやチョコに
*
「日本の~」の歌は田中ましろさんが発行されているうたらば『みのり』の佳作として選んでいただきました。ありがとうございます。ましろさんのセンスと情熱のもと、他の方々の短歌がまぶしく輝くたいへん美しい冊子です。リンク先、PDFからもご覧になれます。
雨の日は影のない日だ。和菓子屋のワッフルを買ってほどけてみよう
カスタードクリームひかる 十年の先を明るく照らせないほど
独りでそれを食ってしまった五つ入りパックを独りで食ってしまった
雨音に力を脱いで目を瞑るやるべき事はやるべきなのに
虚脱感あふれてゆけば出会うのだ体温計でズルした我に
あの人の空のことなど考えて安い仕様の天井を見る
自分へと送信すればすぐさまに受信しすぎて秋は来にけり
亡霊として暮らしてる。頭皮から逃げ出した毛を拾ったりして
アラームに恥をかかせるまどろみの電気羊にバァーと鳴かれて
障子から滲むうすぼんやりの秋 だまりこくって聞き入るしばし
ひさかたのひかりに白くうかんでるあなたの息をとりだして胸の風船ふくらます。さすがに浮かばないけれど張った痛みもうれしくて赤く深く青くまあるくおだやかに肺の稜線転がって色や姿を残すから指ですくって描いてく。思うようにきれいに描こう(思うって何)ほんとうのように描こうか(ほんとう、って)違う、違う。僕は何にも見ていない。実に何にも知らなくて知ろうとさえもしてなくていつのまにやら日が落ちて風船はもう見えないのです
憧れと恐れのうちに描いてた君は贋作。君は生きている
*
「憧れと~」の歌は天鈿女聖さんが運営されているUstreamを使った歌会「歌会たかまがはら」(2011.11/3テーマ「絵」)において、嵯野みどりはさんに選んでいただきました。ありがとうございました。
ぼんやりとしてしくじった棚の上に蜜柑はあってきつく黄を見る
過剰という言葉の淵に篝火は揺らめいていた手をのべ掴む
自らの或いは人の音のない言葉の爪が刺さる剥かれる
湿り気を帯びて素直なダンボールたたむ季節の秋は来にけり
苛立ちをぶつけられても嬉しいと思えるほどに病気だったら
雑巾のような空には裂けそうな赤い気持ちの鵯の声
原付の無謀な右折 あんなふうに吹聴されているかも知れず
心臓が痛いくらいに考えて分からないまま毛を拾ってる
赤になり黄色になってまた赤に 取り残される大交差点
待つという選択(たとえ無意味でも)オレンジ色はひと冬越せる
見えなくて聞いても遠く存在を責める産毛をもわっとさせて
あ、これはと心は躍る。飲み干したマグカップ冷めるほどの時間
真っすぐな言葉が欲しい。水のような小鳥のような光を放つ
分からない苦しみよりも感じないことがこわいと強がってみる
吸うという行為の他にない口の生き物を待つ匙咲きの花
カロテンとビタミンAの関係の優しくはない君と優しさ
甘いもの欲しくなるのは果物からビタミンを摂る本能らしい
生きること不思議に思う洗面所 鏡自体がくたびれている
やけくそに太鼓叩いて呼びたいよ。来たらそそくさ隠れるけれど
パイスープ食べるの苦手。そんなこと気にするないや気になりますね
いかんいかん弱気はいかん。唐突に筋肉質な午前二時過ぎ
弱さとか持ち合わさないことなどをひけらかさない約束を、す、し、
王族と奴婢よりきっと深刻な溝かと思う毛を拾う夜
同い年の人をニュースで見た後の湯呑みのお茶のぬるい食道
青空に蜜柑をむけばよみがえるレジャーシートに躊躇うきみが
(「空」 斉藤斎藤さん選 放送内・『今週の一首』)
*
斉藤さんから
「甘酸っぱい。
たぶん、わたしは公園のベンチにひとりで座っていて、目の前のそこの芝生に、思い出がいま再生されている感じがする。
リアルだなあと思いました」
と評をいただきました。斉藤さんに「リアル」を感じていただけるとは嬉しかったです。ありがとうございます。(以下ネタバレ注意)
すみません。実際はリアルじゃなくて妄想ですしかも100%の妄想ごめんなさいくやしいです←
「レジャーシートに」の「に」か「を」かで迷った以外はすんなりイメージができました。ほぼ斉藤さんがおっしゃった通りです。青蜜柑を剥いて良いにおいがしたことからの発想で「五月待つ花橘の香を~」ではないですが昔の遠足のこととか思い出してみたりして。
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